肥薩線駅弁行脚5・終

いよいよ肥薩線駅弁の旅もフィナーレです。もともと肥薩線は人吉、吉松の駅弁が細々と頑張っていましたが、2003年当時ではもはや風前の灯という感がなきにしもあらずでした。しかし、今や「肥薩駅弁本線」と言ってもよいくらい、活性化してきたのはなぜでしょう。

ここまで盛り返すことができたのは、一つには2004年、九州新幹線開業に伴う新八代駅での駅弁新業者参入、そしてもう一つには特急「はやとの風」運転による嘉例川駅弁の誕生が大きかっただろうと思います。そして、これらの駅弁は運よく2004年度の九州駅弁ランキング八代駅「鮎屋三代」1位、嘉例川駅「百年の旅物語かれい川」4位と上位にランクされ、さらに伝統の人吉駅「栗めし」も健闘して7位になったことで、完全に息を吹き返したのです。。。というわけで、九州駅弁ブームの火付け役となった嘉例川駅「百年の旅物語かれい川」を肥薩駅弁本線の終着駅にしたいと思います。

            

上の掛け紙は2004年3月13日、 九州新幹線の開業と特急「はやとの風」新設を記念した肥薩線嘉例川駅の駅弁(初日限定発売の形)です。ごく少数、この1日だけの販売であり、その後はしばらく売られませんでした。しかし、惜しむ声が多く、5月の連休あたりから駅前にある物産館での販売が開始され、6月18日からは金土日曜運転の特急「はやとの風」車内販売で一日5個の販売が始まったということです。

これは嘉例川地区活性化推進委員会が企画して作ったお弁当で、現在では「森の弁当やまだ屋」という名の調製元で作られています。掛け紙は和紙にパソコンで加工して作ったと思われるインクジェット紙を貼り付けたもので、調製元、日付、定価などは2004年3月13日発売のものについては一切書かれておりませんでした。

これを初日食べた鹿児島の方(上の掛け紙はこの人からいただいたものです。)の話では、地元の食材を用いているとはいうものの、炊き込みごはんの上に煮たしいたけがのっていたのと、かき揚げ(鹿児島弁だと“ガネ”?)、大根の酢の物・卵焼きがあったということで、ごく普通のお弁当だったということでした。

          

そして、2004年12月29日、砂丘の白兎さんが上の駅弁を購入。以下はそのコメントです。
「『はやとの風』デビューを記念して作られた駅弁。土休日や祝日はこの特急(と言っても、キハ140・147系近郊形気動車を改造した“ぼったくり”特急だが。)の車内販売や鹿児島空港の最寄駅(バス約10分)である嘉例川で入手可能らしいが、悲しいかな、当日は平日で18きっぷ族ゆえに普通列車での移動…。でも諦め切れないので電話で予約を入れると、平日は隼人にて受渡可能とのこと(どうも隼人の弁当屋さんのようだ)。こうして、6分接続の間に入手。味は…もう絶品!! 大好きなたけのこ御飯(しいたけ入り)に味噌田楽にコロッケ(たけのこ,しいたけ入り)に「ガネ」に…。地元では「スセ」と呼ばれる生酢に少々苦戦したが、10分も経たないうちに完食。南九州を旅行される際には、是非御賞味あれ!決して貴方の味覚を裏切らない、本物の味がそこにある。」


ということで、砂丘の白兎さんも大絶賛なこの駅弁をいつか現地で食べてみたいと思っていたわけですが、それは2005年12月6日、神様に導かれたような超ラッキーな形で吉松駅にて手に入れてしまったのです。それは。。。

      

この日、私は深夜2時に自宅を出て「ムーンライトながら」に東京まで乗車し、飛行機を使って寝不足の状態で九州入りしたため、もともと吉松から隼人に抜け、鹿児島中央経由で熊本に投宿すると深夜になるようなルートは絶対に避けようと思い、熊本からフリーきっぷを使用して単純に吉松往復をし、夕方には熊本のホテルで体を休めようと心に決めていました。(往復飛行機と熊本のホテル2泊がパックになった3万円以下の格安チケット利用でしたので、毎日必ず熊本に帰る必要がありました。)しかし、鹿児島中央駅から吉松まで来る特急「はやとの風4号」にこの駅弁がごく少数積まれていることは知っていましたので、もし売れ残っていれば吉松でも手に入るかもしれないという淡い期待があったのです。

14時45分、特急「はやとの風4号」が吉松駅の1番線に着くなり、駄目を承知ですぐに客室乗務員に駆け寄って聞いてみたところ、奇跡が起こりました。なんと、ありました、しかも、1個だけ。。。喜んでいる暇もなく、3分後の14時48分、私は「しんぺい4号」車中の人となりました。これは今振り返っても、閑散期の平日だからできたという、普通ならばありえないことだと思います。本当に超ラッキーな「奇跡」でした。

     

実は往路にお願いして鐘を鳴らしていた真幸駅の「幸せの鐘」にお礼を言うまで開けるのを我慢していたんです。その儀式をしっかりと済ませてはじめて掛け紐を解くことができました。

                 

嘉例川駅は開設された明治36年以来、百年以上の歴史を刻んでいる九州最古の現存駅舎を有しています。その駅舎があしらわれたセピア色の写真に、初期のものとは異なる黒い紙をつけ、竹皮容器に掛けてありました。

       

その中身は上に書かれている通りですが、確かに地元の食材にこだわり、ひとつひとつに決して手抜きが見られない、まさにすばらしい駅弁だと納得できました。おなかはもちろん満たされますが、心も満たされる数少ない駅弁です。


      

以上で「肥薩線駅弁行脚」は終わりです。今までお付き合いくださり、どうもありがとうございました。なお、参考までに2009年10月11日に特急「はやとの風」2号の車内販売で購入した「かれい川」1050円と、嘉例川駅の様子を以下に御覧に入れます。2009年は肥薩線全通100周年の年に当たります。

       

隼人駅を出てすこし経つと、客室乗務員のアナウンスで「かれい川」の予約引き渡しが始まりました。その際、数量限定で「かれい川」を販売するというので、私も並んで購入しました。2009年現在、「かれい川」は土日祝日のみの販売となったようです。なお、「はやとの風」車内で受け取る場合は、3日前までにJR九州の窓口で引換券を購入する必要があり、九州以外の人間にとっては購入しにくい駅弁となってしまいました。下は嘉例川駅の駅舎です。

      

秋の3連休で西日本パスの女性客が多く、激混みの「はやとの風」2号。隼人から300円の自由席特急券に目が眩み、指定席にしておけば良かったと後悔しました。嘉例川駅に着くと、ほとんどすべての乗客が見学のために下車しました。

       

さすがに古い佇まいです。まさに歴史を感じさせる木造駅舎。2006年には登録有形文化財に指定されたそうです。1903(明治36)年1月15日の開業。

       

使い込まれた木も渋さが出ています。次は人が少ない時に訪れ、しばらく明治の空気に触れていたい駅。この日は日曜日でしたが、現地での駅弁販売はなかったようです。やはり、「はやとの風」車内で予約以外の数量限定品を見つけたら、目ざとく買うのが無難です。

       

嘉例川駅ばかり注目されていますが、実は隣の大隅横川駅も駅舎としては同等の古さを誇っています。少しばかり画像で紹介します。「はやとの風」はこの駅でも数分停車しました。

       

さて、九州新幹線の中で賞味した「百年の旅物語 かれい川」。この九州新幹線が開通した2004年のその日に1日だけ売られた最初の形は、お品書きもなく、玉子焼きが入るなど、掛け紙も含めて今とはちょっぴり違っていたようです。それが5年経ち、2007年、2008年には九州駅弁ランキングで2年連続のグランプリを獲得することになります。

      

2009年10月11日に食べた「かれい川」も、2005年に食べたと時と殆ど同じ内容で頑張っています。どのおかずも手作り感がよく出ていて、その素朴さが大人気の秘密なのでしょう。

      

2009年に全通100周年を迎えた肥薩線。その昔こそ正規な鹿児島本線だったこの路線は、海ルートの開通により廃れていきました。しかし、九州新幹線開業に伴う「いさぶろう」「しんぺい」の観光列車運行と、この「かれい川」を初めとした駅弁の誕生によって、再び脚光を浴びています。そしてさらに「九州横断特急」や「はやとの風」の好アクセス列車と、2009年春からは「SL人吉」の運行開始によって、今や日本でも屈指の「駅弁本線」となったのです。

      


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 この駅弁行脚の4年後、2009年10月に逆コースで「肥薩線おにぎり紀行」をしました。こちらへ。