みちのく駅弁行脚 〜その1〜

2007年10月6日〜8日、最初の旅行計画では前橋での所用後、7日までの1泊2日で新潟、南東北を「土日きっぷ」で駅弁行脚する予定でした。

しかし、「曲げわっぱ『黒』鶏めし」4200円が3日間限定で出されるということを知り、花善の公式サイトでも9月21日からFAX予約(大館駅、秋田駅受取分)開始と発表されたため、東京駅に早朝から並べば買えると思いつつも、よくよく考えた末、やはり現地に行こうと決めました。そして、きっぷを「三連休パス」に切り替え、2007年10月7日、遠路はるばる大館へとやってきたのです。


   

下の画像は予約して大館駅前の花善で購入した「曲げわっぱ『黒』鶏めし」4200円。飼い主が亡くなった後も駅前で帰りを待ち続けたという大館出身の秋田犬、忠犬ハチ公像の前で撮影しました。

   

この「曲げわっぱ『黒』鶏めし」はJR20周年と秋田わか杉国体開催を記念して、2007年10月6日から8日にかけて、大館駅、秋田駅、東京駅(JR20周年記念東日本縦断駅弁大会)、大館市内国体会場にて合計1日150食、期間限定で販売されました。なお、大館駅と秋田駅受け取りに関してのみ9月21日より予約が受け付けられ、私も注文しました。しかし、たった1日で予約が完売したということです。

    

上の2枚と下の画像は地元、大館駅前の調製元「花善」の様子(掛け紙の中には私が提供したものもあります)です。1日15食が朝10時より販売されました。私が訪れた10月7日の朝8時半ころには、すでに店の前で7人ほど並んでいました。そして、9時過ぎには当日一般売りは予定数に達してしまい、後から来た客は残念そうに帰っていきました。中には国体会場なら買えるかと問い合わせていた客もいましたが、当日売りは2個しか割り当てがなかったらしく、たとえ無理して行ったとしても、厳しい結果が待っていただろうと推測できます。

   

また、東京駅でも連日この駅弁を求めて早朝から行列が出来たそうです。10月6日の全国紙朝刊に記事が掲載されたことでかなり反響を呼び、問い合わせもすこぶる多かったと聞いています。左下はケースに入れていたので反射してしまい見にくいですが、初日10月6日、「1番」の整理券です。駅弁趣味を持つ私の友人がゲットしたもので、なんと朝5時から並んでいたそうです。

    

「曲げわっぱ『黒』鶏めし」が何故これほどまでに話題を呼んだのか、それは日本三大地鶏のひとつ、比内地鶏で有名な大館にある花善「鶏めし」という老舗の味と、秋田杉を使用した大館工芸社「大館曲げわっぱ」という伝統の技が、見事にコラボレートした自信作だという立派な理由がありましょう。

しかし、このことに加え、「大館曲げわっぱ」だけでも5000円以上はするのに、通常850円のものより豪華な鶏めしの内容で4200円はありえないという大方の予想があったからこそ、これまで話題を呼んだのだと思います。紹介した全国紙には「箱だけで1万円近い」と書かれ、花善の関係者も「原価割れなので、これ以上売れません」と答えていたという記事内容からして、花善がものすごく「ガンバッタ」出血大サービスの駅弁であるということは間違いありません。

    

では、そろそろ中身を見てみましょう。左上は大館駅前にある「忠犬ハチ公」像です。この駅弁は赤い手提げ紙袋の中に入れられ、右上の画像にある弁当販売窓口より手渡されました。下の画像のように、現地で買えたことに感謝して、まず私は秋田犬の像などにお供えした後、駅弁は駅弁らしく、列車内へ持ち込んで食べることにしました。

   

大館駅構内には「大館曲げわっぱ」の展示ケースがあり、見るからに高そう。物によっては3万円くらいのものまであるようです。ここで私は、弁当の中身を通常のものと比較するため、朝のうちに「鶏めし」850円を購入し、予め食しておきました。

    

さて、お目当ての列車がやってきました。寝台特急「日本海3号」です。これから暫くは、沿線に色づき始めた津軽リンゴを見ながら、弘前まで約40分の駅弁道中ということになります。

    

掛け紙ですが、中身の黒さを思わず想像したくなるような、そんな灰色基調で、赤、黒、白しか用いられていないシンプルな、しかし重厚で厳かな雰囲気を放つ和紙を使用しています。竹皮の籠形容器入り。

   

寝台車下段のシートに置いて、走行中ですから写真がぶれそうではありましたが、駕籠容器から本体の曲げわっぱを取り出し、撮影しました。黒鶏めしのしおりに、希望者にはシリアルナンバー及び購入証明書が送られてくるという申し込みハガキが入っていました。

    

そして、ついに「秋田 大館 花善」と書かれた「大館曲げわっぱ」とご対面。当然のことながら本物は手作りです。蓋から側面にかけて「Handmade」と書かれたシールが貼られていました。

   

さらに、一気に蓋も取って、とうとうその中身が明らかに。。。。。しかし、あれれ? 看板の「黒」めしが見えません。

   

そこで、おかずを少しどけて見ると、やっと黒いのが出てきました。下にあるご飯は、ごまかしなしに「真っ黒」でした。白身と黄身が別々になった「裏ごしふり玉子」が敷きつめられ、おかずもぎっしり載せられているため、探すのにも一苦労でした。

仮に安直に黒さの秘密を考えるのならば、まず「イカスミ」だろうと思い浮かべました。しかし、イカスミ独特のコクはありません。それに、もしイカスミなら、肉に魚介類の出汁をまぜるようなものですから、鶏肉炊き込みご飯の旨味を相殺してしまいそうです。だとしたら、何だろう。。。(ここで下の画像を油絵風にしてみました。)

   

答えは。。。なんとまあ「備長炭」でした。表向きには「企業秘密」とされていましたが、この駅弁を買った人だけが見ることの出来る「掛け紙」の原材料名に、しっかりと「備長炭」と書かれていたのです。そう、「備長炭」は食用にもなるということで、オドロキです。帰宅後さらにいろいろと調べてみると、確かに「食用炭」として、健康食品にまでなっていました。

さて、この「黒」めしを賞味します。驚いたことに、全く「鶏めし」の味が損なわれていません。なんかこう、フルーティーな甘みさえ感じました。味が損なわれるどころか、むしろご飯を炊くときに備長炭と一緒に炊くと臭みが取れて美味しくなるように、きっと「あきたこまち」のもっちりとした、ごはんが持つ本来の穀物の「甘み」が引き出されていたに違いありません。そう断言したくなるほど、さらにおいしさ、爽やかさがパワーアップしていたように思います。また、鶏肉は通常版と同じように甘辛く、そして固すぎず柔らかな食感で、噛めば噛むほど味があり、さすが「鳥めし・東の横綱」の名に恥じない旨さでした。

   

では、なぜ鶏めしを黒くしなければならなかったのでしょうか。。。。。それはこの黒いご飯が、かつて「黒鉱」と総称される鉱石が採掘されたことをイメージしているからなのです。大館の近くには亜鉛、鉛、銅などが産出される、国内屈指の花岡鉱山と小坂鉱山(共に同和鉱業の持つ私鉄線があり、その昔は旅客営業もあって私も完乗しています。)がありました。この駅弁の「黒」めしはそういうわけで、「黒鉱」をモチーフにしているのです。

最後に、おかずを見てみましょう。私が一番気に入ったのは、「秋田フキの包み身欠き鰊煮」でした。とろける旨さとはまさにこのことを言うのでしょう。そして、串に刺された鶏肉団子「比内地鶏のつみれ甘辛煮」も比内地鶏らしい濃厚な旨味たっぷりの逸品でした。それから、根曲がり竹の味噌和えもいい。さらにアミタケの醤油漬けは一気にかきこみたくなるように糸を引いてました。さらに、忘れてならないのは酢漬けの「ちょろぎ」。絶妙な酢加減と食感で最高の箸休めとなりました。

   

その他、こまち湯葉のすり身寄せ、芋の子片栗揚げなど、どれも秋田の食材にこだわったおかずばかりでした。そして感動的だったのは、通常の「鶏めし」と共通したおかずが飾り付けの「絹さや」以外は何もなかった、という事実です。それだけに赤字を覚悟で作られた「曲げわっぱ『黒』鶏めし」に注ぎ込まれた真心と、並々ならぬ情熱がビンビン、ズシズシと伝わってきました。今さら言うまでもありません。

   

今後このような、売れば売るほど赤字になるという摩訶不思議な駅弁企画は期待できないでしょうが、「曲げわっぱ」を安い容器に換えて、「黒鶏めし」だけはぜひ何かの機会に復活させていただきたいと思います。

色を付ける目的に使われたと思われる食用備長炭が、実は色だけでなく、鶏肉の旨味をより純粋に、より爽やかに味わえ、かつ「あきたこまち」の持つ本来の味を最大限にまで引き出していた効果があったのかなと、私は感じずにはいられませんでした。とすると、これはもうやはり、「特上」の上を行く「極上」の味であるのだろう、この味は、この製法は(オーバーな表現かもしれませんが、)駅弁文化、ひいては食文化のためにも、特許申請をしてまで花善に残してもらわないといけないな、と真剣に思ったのでした。

   

2007年12月3日、「曲げわっぱ「黒」鶏めし」購入証明書が自宅に届きました。杉の薄板に印刷されていました。私のシリアルナンバーは0310。「JR東日本開業20周年並びに秋田わか杉国体を記念し製造いたしました「曲げわっぱ「黒」鶏めし」を購入されましたことをここに証明いたします。」と書かれ、大館工芸社と花善の社印が捺してありました。杉の良い香りがします。

          


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