冬の道東・旅駅弁  〜その3〜

全国の百貨店催事で実演され、人気を博している厚岸駅「かきめし」。いつか現地で味わってみたいと思っていました。遠く四半世紀前にこの地を訪れた夏にはとても塩辛い「さけ弁当」を食べ、当時は冬季限定であった「かきめし」には出会えませんでした。2007年12月21日13時過ぎ、1963年に発売された名物駅弁を44年目にしてやっと現地で食べる瞬間がやってきました。

   

2007年12月21日、厚岸駅で下車すると、キヨスクに「かきめし」950円と「かきおにぎり」250円、「ほたておにぎり」200円が売られていました。しかし、作りたてを予約(0153−52−3270)していた私は駅前にある調製元「氏家待合所」へと向かいました。

    

そこには氏家社長さんが駅弁を作って待っていてくださいました。受け取ってすぐにいただこうと思っていたのですが、駅弁談義に花が咲いてしまい、次の根室行きが到着する寸前まで話し込んでいました。

    

根室行きキハ54単行に乗り込んですぐ、牡蠣の養殖で有名な厚岸湾に沿って走ります。厚岸はアイヌ語で牡蠣の多いところという意味の「アッケケシ」がその名の由来だと言われます。「かきめし」は氏家社長が子どものころ、社長のお母様が健康に気遣いをして食べさせてくれたのがその始まりだそうです。

   

駅弁を紐解くと、まず経木の香りがなんとも言えない。昭和の香りとでも言っておきましょうか。催事とは違うという雰囲気はまず嗅覚がとらえました。そして、蓋を開けて飴色に煮込まれた大ぶりの牡蠣に衝撃を受けます。視覚的にも旨くないはずがないと納得させるだけの迫力を感じました。

   

牡蠣の他に、アサリ、ツブ貝、椎茸煮、蕗、沢庵、福神漬けなど。ごはんもいい色しています。牡蛎を口にほおばった瞬間、この世の旨味をすべて凝縮したような濃厚な味わいが爆発して、一気に鼻まで抜けていきます。今まで催事で食べてきたのは何だったのかと思うと、その味に納得していた私は、なんだか気恥ずかしくなってきました。それくらい違います! タレだけでも数種類ブレンドしており、牡蛎の味わいをより深くしています。

   

調理場を拝見すると鍋がいくつもありました。まず鍋に牡蠣を入れてそのまま火を加えるのだそうです。すると、牡蠣エキスが白く湧き出てきます。このエキスを長年継ぎ足している甘辛醤油ダレに加えて味を調え、アサリやツブ貝などの煮汁を足し、ヒジキと一緒にごはんを炊くというのですから、旨いに決まっています。百貨店の実演では限界があるタレの調整も、ここ現地では完璧に仕上がり、この世のものとも思えない濃厚な牡蠣の「かきめし」が生まれるのです。

   

さて、ここから下は駅弁催事で食べた「かきめし」のご紹介です。厚岸駅「かきめし」は委託販売される駅弁大会では何度かお目にかかっています。下は2003年11月4日、静岡伊勢丹の北海道物産展で実演販売された「かきめし」です。

    

下は2006年1月9日購入。これも駅弁大会。輸送駅弁です。牡蠣の他にあさり、ツブ貝も入っています。

   

できたてでさえ牡蛎の味付けはしょっぱいくらいにかなりの濃いめ。でも、牡蛎の旨味が口の中に広がって、下に敷かれたおこわ風の御飯に負けないだけの、それなりの力強さはあります。

   

下は2009年9月13日、D-Rossoさんが厚岸駅を訪れて購入した「氏家かきめし」。貴重な画像どうもありがとうございました。以下はコメントです。

    

「ついに到着しました厚岸駅&氏家待合所! まだ開店準備中だった氏家社長にムリをお願いしてお店を開けてもらい、念願だった現地出来たての「かきめし」をふたつ購入。すぐに駅待合室でいただこうと思っていたのですが社長とのお喋りに花が咲いてしまい(と言いますが、ほぼ社長のワンマンショーでしたが。笑)、折り返しの釧路行きキハ54車内でいただきました。 京王駅弁大会で社長をお見かけしたときは「職人気質の、気難しそうな方だな」と言う印象だったのですが実際お会いしてみるとこれが大違い、気さくで話好きの「闊達な漁師町のお弁当屋さん」と言った感じで、京王のウラ話などいろいろ貴重で楽しいお話を伺えました。(中略)(氏家社長をご存知の方も多いと思いますが、念のため画像にはモザイクを掛けさせていただきました)(中略)
さあ、いよいよ現地の「かきめし」をいただきます! ああ、感無量・・・ ご飯の色、カキの粒の大きさとその照り具合、そして香り・・・これまで催事でいただいてきたものとは全くの別物ですね。上ちゃんさんがおっしゃられていた通り、味覚の前に視覚と嗅覚でその凄さに圧倒されます。(中略) 筆舌に尽くしがたい、とはこのことを言うのでしょうか。とても私の拙い文章表現力では書き表すことが出来そうにありません。 ただ、大ぶりのカキを口に含み、噛み締めた瞬間、涙が出そうになったことだけをお伝えしたいと思います。 厚岸まで来て本当によかった、と思ったことも。」


   

下は2006年4月4日にはやしさんが厚岸駅前の調製元で購入した「かきめしのおにぎり」。貴重な画像どうもありがとうございました。以下の「 」ははやしさんからのコメントです。

   

「お馴染みのかきめしのおにぎりです。「ほたてのおにぎり」と違って、こちらはお店かキオスクで買えます。 」

   

「中身です。かきめしそのままです。」 「駅前です。左が氏家待合所さんです。電話連絡は午前迄です。厚岸カキ祭り期間中はかきめしのみです。 」

   

さて、このページ最後の画像(下の画像)は氏家待合所で撮影した、2007年12月21日に購入した「かきめし」950円とおにぎり2種です。

   

別れ際に、「うまい、と言ってくれるお客さんがいる限り、厚岸という小さな駅前にこだわって「かきめし」を作り続けるよ」という何とも頼もしいお言葉を社長さんから頂戴しました。これからもずっと残して欲しいと心の底から思えた、食文化を感じさせてくれる駅弁でした。

   

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